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第二話 卓上の名探偵
「コテツくんは数の概念を完全に理解しています」
小学1年生の1学期にコテツの母が最初に先生から言われた言葉である。それを言われた母は誇らしかったのか、その事をコテツに報告してきた。
コテツは遊んでばかりの子だったが算数はできた。特に図形は得意で、解法を習う前から自分なりの方法で答えに辿り着いたりすることもあって先生を驚かせた。
小学4年生になり図書委員になったコテツは委員の仕事は忙しくなかったのでほとんどの時間は読書をしていた。その時出会ったのが推理小説だった。推理小説の探偵のように一を聞いて十を知るような『名探偵』に憧れて推理ごっこに夢中になる。
中学生になる頃には少年探偵団を作って学校で起こる小さな事件を推理した。
だが、当然の事ながらそんな都合良くポンポンと事件など起きたりしない。そんな平和な中学生活が終わろうとする3年生の冬休みに運命の出会いをすることになる。
「麻雀出来る?」
初めての麻雀の誘いだった。全く分からない無知な状態だったので。
「いや、知らない」
と答えると。「そっかー、でも大丈夫だよ。むしろコテツには向いてる遊びだと思うな~」とのこと。
(???)
どういうことかなと思いながらも興味はあったので参加。誘ってくれた友人から遊び方を教えてもらう事にした。
「とりあえず同じの2枚揃えればいいよ。それが7つでアガリ。あとは1.9.字牌全部集めたらアガリ」
「いちきゅーじはい?」1.9.字牌と言われても何のことか分からないからそれが何なのか聞いた。とりあえずその2種類のアガリだけ説明されてゲーム開始。あとはやりながら覚えることになった。無茶苦茶である。
「あっ、出来た! それで完成」
コテツ手牌
二二四四伍伍⑤⑤⑨⑨発発中 中ロン
コテツはさっそくチートイツを完成させた。友人がチートイツドラ2で4ハンだから満貫だ。と教えてくれる。点棒を言われるまま貰う。どらにってなんだろう?
「それ、アガリ」
コテツ手牌
三三四四八八2244556 6ロン
友人が今回はタンヤオになってるからザンクだねと言う。たんやおってなんだ。
(後でわかることだが、この点数はふたつとも間違っている。最初のが6400点で2回目のが3200点が正解)
よくは分からないけど28000点の二着で終わった。それが最初の麻雀だった。
(なんかまだ分からないけど楽しい!)
それからは時間があれば麻雀をやり集まらない時は1人で麻雀の勉強をした。それでルールを覚えた頃にやっと友人が最初に言った(向いてる遊び)と言われたその意味を理解した。
(……そうか、このゲームは推理ゲームなんだ。リーチという事件が起きた時に捨て牌という現場を見てプロファイリングするということか。なるほど、そういうことなら向いている!)
コテツには特殊な能力があった。音楽を記憶する能力だ。1回聴いたらメロディーを記憶し2回聴いたら歌詞も記憶してしまう。
そんな能力があるのだが、だからどうだと言うんだと自分では思っていた。高校に入って最初に校歌を練習していた時に覚えたら後ろを向いて座る事と言われ2回目で座った時は学年主任が寄ってきたが3番まで完全に記憶していることを確認し狼狽させた。
カラオケでのレパートリーは豊富で困らないというだけの才能。かと思っていたのだが、この力が麻雀に役立つことになる。
相手が何を欲しくて何がいらないかを推測するヒントに『手出し』という情報がある。
手出しとは今引いた牌を収納して手の内の牌を出したということ。その情報を知っていると何が危険か分かりやすくなるのだが、はっきり言ってそれを全て見ることはちょっと難しい。麻雀とは相手は3人いて自分の手のことも考えてと忙しいゲームであるため、ついつい目を離してしまう時があるものだ。
しかし、コテツは歌記憶能力があるので打牌音に耳を傾けているだけでいい。
タン……タン…タン
のリズムを丸ごと記憶して少し間隔があいた時に切った牌をヒントに読む。
手出しだろうとツモ切りだろうと考えた牌はヒント牌である。
その考えた牌は打牌音を音楽として捉えることで記憶可能なためこの才能はおおいに役立った。見てなくても聴いてればいい。
その能力のおかげか、はたまた勉強熱心なためか高校を卒業する頃にはコテツはいっぱしの雀士になっていた。特に読みに関しては人読み手順読み雰囲気読みと優れた能力を発揮していた。それ故にスレスレの所を読み切りすり抜ける麻雀を得意とした。
「この辺が危ないのかな? じゃあもうカンだ」
「なんでわかるの!」
「音で」と言った具合である。
そんな彼は友人達にこう呼ばれ……もとい呼ばせていた。
『卓上の名探偵』と。
93.第三十話 無力を知る「じゃあ、もうおれたち帰るから」「おう、ありがとな。おれは…… もう、寝る」 コテツは今にも眠りそうだった。普段からふたえがくっきりとした眠そうな顔をしているコテツだが、それがさらに際立っていた。「そうしろ、おまえもうここで寝そうだけどちゃんと布団行けよ? 鍵は開けといていいのか?」「大丈夫だ、開けたままでいい。じゃあな、今日は本当に助かったよ。アヤノさんもありがとう」「お気になさらず。私は元々ヒマでしたから。あ、冷蔵庫に明日食べるものを作り置きしておいたので明日お腹空いたら食べて下さい」「わかった。明日食べる。ありがとう」「いえいえ、お口に合うかわかりませんが、栄養はあるので摂って下さいね」 「じゃあ」「うん、ありがとう」「お邪魔しました」 ガチャ、……ガチャン 2人は帰った。 そのあとコテツは直ぐに眠りについてしまったようで気がついたら朝だった。 ケータイを確認する。シオリから一通連絡が来ていた。産まれたのだろうか。“まだ産まれない” とだけ書かれていた。相変わらずの文章だ。と思ってコテツは微笑む。この感じが好きなんだ
92.第二十九話 アヤノ料理長「ところでお前なんでオレに大丈夫とか聞いてきたわけ?」「自分でわかんねえのかよ。さっきの麻雀酷かったぞ」「もう記憶にねえや。棄権したかったけど棄権の方法もよくわかんなかったし。ただなんとなく打ってやり過ごしたから」「東1局の三元牌処理に続いて東2局のリーチのみ。それだけ見ればもうオマエに何かあったと確信できる内容だったよ」「凄い信頼関係ですね。それだけでわかるなんて」とアヤノは心底驚いた。 「ああ、メタは麻雀オタクだから」「お前だってそうだろ」「メタ?」「あ、メタは髙橋のアダ名だからアヤノさんもそう呼んでやってよ」「そうなんですか『メタさん』ふふ、なんかかわいいかも。私、お粥作りますね。キッチン借ります」「ありがとうね。アヤノさん」「おい、アイス食うか? ポカリもあるから飲めよ」と、メタが買い物袋から何個かのアイスとポカリを取り出す。「ありがとう、それ。レモンのやつもらうよ。買い物いくらした? 金払うから」「そんなんいいよ。病人はいらんことを気にせずにゆっくり休めよ」「でも」「いいから!」「たく、お人好しが……」「なんかいいですねえ。うちの店のスタッフの関係性とは大違いです」 アヤノは心底羨ましそうだった。コト アヤノがお粥を置く。腕の筋力があるのか、けっこう重い食器をとても静かに、丁寧にテーブルに置いた。「ふーふーして食べて下さいね♡」
91.第二十八話 天性の女たらし メタとアヤノはコテツの家がある駅に着いた。駅前薬局で少し買い物をして、熱冷ましのシートなども購入する。 ケータイで配信を確認すると、コテツの出番は終わっていた。 結局コテツのアガリは1回しかなく、敗退した。それも仕方ない。本調子ではないのだから。というよりは絶不調だ。「まあ、しゃあねえな。いくらアイツがバケモンでも体調不良にゃ勝てねえか」と言いつつもメタは残念そうだった。(それでもコテツなら勝つかも)そんな期待をしていたのだ。「アヤノさんはまだコテツと喋ったことないよな。気を付けてくれよ。あいつは天性の女たらしだから。口を開けば甘い台詞言い出すんだ。熱出てるからって油断できねえ」「そんな人なの? コテツさんて。でも既婚者よねえ?」 「義理堅いし、真面目だし。仕事に真剣で、プロ意識の高い男だよ。ただ、女たらしなんだ。呼吸するように『可愛いよ』とか『きれいだね』とか言いやがる。でも、結婚してからは女の子とは食事に行くくらいしかしてないみたいだけどな。つまり女が好きなんだよあいつは。少し面倒なくらいにさ」 気付いたらもうコテツの家の前だった。ピンポーン呼び鈴を押すとコテツが出る。『おいこら、デケェ声で人聞きの悪い話をしながら歩くんじゃねえよ。網戸なんだから近所中全部聞こえてんだよ。……鍵はあけてあるから入ってこい』「たく、それが看病されるやつの態度かよ! 少しは感謝したらどうなんだ?」「今さっきまでは感謝してたんだよ」「お邪魔しまーす」
90.第二十七話 おれとお前の仲 メタはコテツのことを心配して電話をかけたが対局中だから出れないという。それはそうか。 またメールでやり取りする。"今どこにいるんだ、カミさんの入院してる病院か?""いや、家。おれのパソコンでかいし重いから持ち運ぶ習慣なくて""家に一人で体調不良じゃ大変だろ。いまちょうど暇だから差し入れ持ってってやるよ""え、悪いよ。大丈夫だよ大人だし。麻雀終わったらコンビニくらい行けるから""気をつかうなよ、おれとお前の仲だろうが""……そうだな、すまん。助けてくれ" メタはマサルに話してみた。すると。「悪いな、そしたら行ってやってくれ。くれぐれもマスクはして。伝染されないようにな」と、事情を聞いたマサルはメタを早上がりさせた。「お先に失礼します。みなさんごゆっくりどうぞ!」 退勤の口上を上げてメタが早上がりする。 すると、階段を降りたその先に背の高い女性がいた。アヤノだ。雀荘に入ろうかどうか悩んでる様子だった。 アヤノがメタに気付く。「あれ? 髙橋さん。どうしたの?」「アヤノさんこそどうして?」「私は今日は16時上がりの半休だったから明日休みだし、1人で来てみたんだけど。でも、1人で入るのはやっぱり勇気が出なくてウロウロしていたの」「そうなんだ、せっかく来たなら遊んでってよ。おれは今から行くとこあるから今日はもう退勤なんだけどさ」「髙橋さんいないなら意味ないし」
89.第二十六話 こいつは誰なんだ 大会の予選期間が終了した。コテツは当然というか、さすがというか、難なく一発でオールトップを出して予選通過。その事も誰にも言わずにいた。仲間たちを大会に誘わなかったことを気にしていたのだ。 でも、そう隠し通すのも限界が来ていた。というのもコテツは本戦のAグループにされておりネットで生配信卓に指定されたからだ。 南上虎徹の名はもう登録してるのでそのままネットで出てしまう。麻雀オタクなメタやネット麻雀に精通しているアキラには絶対に見つかるだろう。(登録名、SNSハンドルネームの『雷神』を使えばよかったかな)と思ったが今さら遅かった。 ◆◇◆◇ 本戦がネット配信される頃。シオリは入院していた。もうそろそろ産まれる頃だからだ。 コテツのパソコンは一応はノートパソコンなのだが、デカくて重いので持ち歩く習慣が無く、常に定位置に固定していたので本戦を終えたら明日は病院へ行くとシオリには伝えていた。今日はコテツは仕事を休んで本戦。明日は出産の立ち会いという予定だった。 しかし、コテツの身体に異変が起こる。なんだか具合が良くない。午後7時半(気分が悪いな)と思いながらも大会の本戦Aグループの試合が生配信で始まった。◆◇◆◇ メタはしばらく早番だった。 コテツが4連休を取っているのでその期間の早番の打ち子1番手を担当してもらうためだ。 コテツの4連休なんて聞いたことがなかったが出産予定日が近かったからそのためだとみんな理解した。しかし、本当の所は初日は別の理由だった。夕方からの麻雀大会本戦に出るためである。────
88.第二十伍話 子供は臨時パーティー 白山シオリが引退した。 元々積極性のないシオリは結婚してからは活動休止状態だったが、今回妊娠して、これからは妻として、そして母としての幸せを大切にしていきたいということでプロ団体から籍を消した。 収入面は夫である南上コテツに全て任せることにして自分は子供と一緒にいれる時間を何より優先した。 シオリは賢い人だ。だからまだ産む前からあることに気づいていた。それは、子供とはいずれ別れる。子供は臨時パーティーだということ。 いかに我が子だと言っても同じ時を過ごせるのはほんの20数年。生涯を共に生きてくれる相手は配偶者だけなのだと、それを理解していた。だから、大切にする。子供が子供である時間を。出来る限り手厚く接して育てていこうと決めていた。 私の冒険はここで一度終わり。一旦セーブして。ここからは母としてサポートの物語。子供が主役の物語の脇役になる。というような、そんな考えを持てるのがシオリなのであった。 ◆◇◆◇ 丁度その時期に参加費無料のネット麻雀から予選参加出来る新しいタイプの麻雀大会が告知された。賞金は優勝400万円。連続した5半荘の成績上位が予選通過となり本戦へと進出する。本戦からはネットでその日その日で配信卓があり1箇所だけは生配信される。準決勝卓からはリアルの卓を使用しての配信となる。参加資格は18歳以上。つまり特にないということだ。(これは出るしかないな)とコテツは思った。 いつもなら面白そうな事はみんなにも声をかけるコテツだが、富士2の連中は本当に世界レベルで強いやつが揃っているのでやめておいた。 今回だけは強敵と当たりたくない。400万円はおれが貰って子供のために貯金しとくんだ。そう考えて(あいつらも誘いたいなぁ)というウズウズする気持ちをなんとか制御して誰に
5.第伍話 4人目の男 アキラ お父さんは普通のサラリーマンで夜6時に帰ってくる。お母さんはスーパーのレジのパートタイマーとして働いていてごく普通の家庭に育った。 特別なことはなく、どこにでも当たり前にある平凡な暮らしをしていたと思う。 妹が1人いて兄としてしっかりしないとという気持ちはあったから普通に進学して普通に就職を何となくだけど目標にしてた。 特別とは程遠い普通の人。それが自分。 そう自己紹介するのは4
4.第四話 コードネーム ジンギ いわゆる義賊の真似事だった。 悪人から大金を巧妙に騙し取って。表に出せない金だから泣き寝入り。そんな、悪人を騙しまくる天才イケメン詐欺師ギンジ。 巷ではその悪人だけ狙った義賊的な活躍からコードネーム『ジンギ』と呼ばれていた。 ジンギが悪党から奪った金は2億円にもなった。 それだけあればもうリスクを背負って詐欺を働く必要もないと思い、そこで詐欺師稼業か
6.第六話 計算女王 シオリ シオリは計算機のような女だった。一流大学大学院まで行って化石の研究チームにまで入って勉強していたが時給の高いアルバイト先の雀荘で「本走入れればもっと時給上がるよ」と言われて麻雀を覚え「プロになればさらに時給上がるし今なら社員旅行で沖縄も行けるよ」と言われたのでプロ試験を受けた。結果はなんと首席合格。大学院は2年で辞めてプロ麻雀プレイヤーとしての道を進む。 シオリは瞬く間に頭角を表した。時給UP&沖縄旅行目当てでしかないのでプロリ
ごきげんよう、彼方です 今回の舞台は『雀荘』 高レートともノーレートとも競技麻雀とも違う普通の雀荘。 普通の雀荘とはどんなものかをこの物語で知ってもらえたらなと思って筆をとりました。 これを読んで、雀荘楽しそうだなとか行ってみたいな、なんて思ってもらえたら幸いです。◆◇◆◇もくじ➖️メインストーリー➖️第2部 麻雀烈士英雄伝最終章【カラスたちの戯れ】➖️表紙イラスト➖️しろねこ。◆◇◆◇ 今回の物語は作者が一番最初に書いた物語です。なので主人公が作者自身であったり、ほぼ実話であったりと、若干恥ずかしくもある小説で、一番思い入れの大きな作品です。そんな『牌神話〜麻雀